東京地方裁判所 平成12年(ワ)3459号 判決
原告 破産者株式会社メッセウィンジャパン
破産管財人
瀬川健二
被告 日本通運株式会社
右代表者代表取締役 岡部正彦
右訴訟代理人弁護士 山田克巳
右同 山田勝重
右同 山田博重
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、三九〇〇万円及びこれに対する平成一二年三月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、破産管財人である原告が、破産会社と取引を行っていた被告に対して、破産会社と被告が締結した集合物譲渡担保契約とこれを前提として行われた三九〇〇万円の弁済のいずれもが、破産会社の債権者を害する行為であるとして、否認の対象となると主張している事案である。
一 当事者間に争いのない事実等
当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は、以下のとおりである(証拠あるいは弁論の全趣旨により認定した事実については、末尾に証拠番号等を掲げた。)。
1 当事者
(一) 原告は、平成一一年七月一四日、東京地方裁判所において破産宣告(平成一一年(フ)第四七三七号)を受けた、訴外株式会社メッセウィンジャパン(以下「破産会社」という。)の破産管財人に選任された弁護士である。
(二) 破産会社は、店舗を有することなく、賃貸施設等においてイベントセールを開催し、スポーツ用品、日用雑貨品の商品販売等を目的とする会社である(甲三、乙一、乙一五、弁論の全趣旨)。
(三) 被告は、物品の運送保管業務等を目的とする会社である(弁論の全趣旨)。
2 破産会社と被告との取引
(一) 被告は、平成九年四月ころ、破産会社に対し、被告会社船橋倉庫約一一〇〇坪を賃貸し、破産会社の商品を宅配する業務を請け負うなどしていたが、平成一〇年九月一日には、破産会社との間で、破産会社が販売する商品の物流業務を被告が請け負う旨の業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結し、その後、千葉市花見川区所在の被告千葉北流通センターを賃貸するなどしていた。(乙二、三、弁論の全趣旨)
(二) 被告は、平成一一年三月三一日、破産会社との間で、先に締結した本件業務委託契約に、その業務として船橋流通倉庫、船橋栄町倉庫、白井流通センター及び浦安倉庫において保管業務を行うことを追加するなどの変更を加える旨合意し、その旨の覚書(乙四の一)を作成した。
(三) 破産会社は、同月三一日に、同年二月、三月分の請負代金及び運送代金合計四五九九万二七〇二円及び同年四月分の千葉北流通センターの賃料二七九万六五七三円を、弁済期である三月末までに支払えない旨被告に連絡した。
被告は、右連絡を受けて、同年四月九日にその処理について協議することとする一方、同年四月分の千葉北流通センターの賃料二七九万六五七三円だけは同月九日までに支払うよう要請した。
(四) 被告は、同年四月九日、午前中に右未払賃料二七九万六五七三円の支払を受けたことを確認した上、破産会社との間で、同年二月、三月分の請負代金及び運送代金合計四五九九万二七〇二円を消費貸借の目的とし(以下「本件準消費貸借契約」という。)、四回の分割弁済の合意をする一方で、被告が千葉北流通センター、船橋流通倉庫、浦安倉庫、船橋栄町倉庫及び白井流通センターにおいて保管・管理する破産会社の商品を、本件準消費貸借契約における債務の譲渡担保とする合意をした(以下「本件譲渡担保契約」という。)。(乙八、弁論の全趣旨)
被告は、右合意に基づき、同年四月一〇日支払期限の一〇〇万円を受領した。
(五) 被告と破産会社は、同月二七日、本件準消費貸借契約及び本件譲渡担保契約の内容で公正証書を作成した。(甲二)
(六) 被告は、本件準消費貸借契約の第二回目の支払が、弁済期である同年四月末日になされなかったことから、同年五月六日、破産会社が期限の利益を喪失したとして、被告において譲渡担保権を実行した旨の通知をし(甲四)、同様に弁済期に支払がないことから、同月一三日、千葉北流通センターの賃貸借契約を解除する旨の通知をした(甲五)。
破産会社は、同月一八日、被告に対し、本件準消費貸借に基づく債務を、東京ドームで開催するイベントによる売上げで返済する旨の計画案を作成、送付した。(甲六、乙一三の一、二)
(七) 被告は、右計画案を踏まえて、同月二五日ころ、本件準消費貸借に関して、破産会社の被告に対する債務額の確認(1項)、賃貸借契約終了の確認(2項)、破産会社の被告に対する債務(1項)を東京ドームで開催予定のイベントでの商品売上金から被告に最優先で支払うこと(3項)、破産会社の被告に対する債務(1項)の返済を受けたときは商品の所有権を破産会社に返還し、売れ残り商品を持ち戻ること(4項)などを内容とした確認書を作成した。(乙一四の二)
(八) 被告と破産会社は、同年六月一日、右確認書4項のうち、「売れ残り商品を持ち戻ること」を「売れ残り商品を返還すること」に訂正した上、調印した(甲七)。
3 破産会社の営業活動
(一) 破産会社は、平成一〇年八月に独立して会社設立後、同年九月に幕張メッセ、横浜パシフィコ及び東京ビックサイトで、同年一〇月に宇都宮ロフト、ポートメッセ名古屋及び東京ドームで、同年一一月に福岡ドーム、コンベックス岡山、アイテム愛媛及びアクセス札幌で、同年一二月にアイメッセ山梨、ツインメッセ静岡、ポートメッセ名古屋、メッセ昭島、大阪ドーム、幕張メッセ及びパシフィコ横浜で、平成一一年一月に長野ビックハット、東京ドーム、アイテム愛媛及び名古屋ドームで、同年二月に石川産業展示館、東京ビックサイト、メッセ昭島、大阪ドーム、パシフィコ横浜及び幕張メッセで、同年三月にツインメッセ静岡及び夢メッセ宮城で、同年四月に大宮倉庫バーゲン、草加倉庫バーゲン及び篠崎倉庫バーゲンで、それぞれイベントを開催して、営業活動を行った。
(二) 破産会社は、平成一一年六月一一日から一三日までの三日間、東京ドームでイベントを行った。
この際、売上げは概ね六三〇〇万円に達し、破産会社は、被告に対しては三九〇〇万円を、他の会社に二四〇〇万円を支払った。(乙一五、弁論の全趣旨)
二 主な争点
1 本件譲渡担保契約に詐害性があるか。
2 破産会社に詐害意思があるか。
3 被告に詐害意思があるか。
三 争点に対する当事者の主張
1 争点1(本件譲渡担保契約の詐害性の有無)について
(原告の主張)
破産法七二条一号にいう「破産債権者を害する」とは、債権者の共同担保が減少して債権者が満足を得られなくなることを意味するが、本件譲渡担保権契約は、破産会社の債権者を害する行為である。
(一) 平成一一年四月九日当時、破産会社は、本件譲渡担保契約において対象としている商品以外に資産を有しなかった上、被告に対しても、約四五〇〇万円もの債務を支払えないで延滞しており、債務超過にあったことは明らかである。
したがって、すでにこの段階で事実上の倒産状態にあるといえる。
このことは、同年四月三〇日段階の貸借対照表からも債務超過は明らかである。
(二) 本件譲渡担保契約は、債権者の唯一の共同担保である破産会社の商品に譲渡担保権を設定して、他の債権者の満足を得られなくするものであるから、否認の対象となる。
本件業務委託契約によれば、被告の請負業務内容に保管業務が含まれていることだけからみれば商品につき商事留置権が成立することになるが、本件業務委託契約に保管業務が加えられたのは平成一一年三月三一日であるから、本件譲渡担保契約と一連の行為というべきであって、商事留置権が成立していたということはできない。
また、保管業務の規定のない千葉北流通センターについては商事留置権が成立しない。
(被告の主張)
本件譲渡担保権契約は、破産会社の債権者を害する行為ではない。
(一) 破産会社は、平成一一年四月九日当時、その営業の特徴からすれば、単に債務超過しただけであって事実上の倒産状態にあるということはできない。すなわち、破産会社は、製造業や店舗営業と異なり、土地・建物・機械・原料などの資産や元手を必要としない商品営業を行っており、右のような資産を要しない代わりに、売上げについては、イベントセールの開催場所・開催時期・天候・広告・宣伝方法などにより大きく左右される特殊性があるほか、イベントセールのための広告費・会場借上げ費用・商品仕入代・人件費・商品搬入、運送代金等は全て後払いとされ、債務超過となるのである。
したがって、イベント開催前の一時期の資産関係をみて債務超過かどうかを判断することは相当ではなく、本件譲渡担保契約の対象物が唯一の資産とすることもできないところ、破産会社は、平成一一年六月の東京ドーム開催イベントまで順調に営業を行っていたのであるから、平成一一年四月ころ事実上の破産状態にあったということはできない。
(二) 被告は、平成一一年四月九日、破産会社との間で、本件業務委託契約により、船橋流通倉庫、船橋栄町倉庫、白井流通センター、浦安倉庫及び千葉北流通センターにおいて保管業務を行っているから、本件譲渡担保契約の対象となる商品については、商事留置権の成立要件を具備していた。
したがって、譲渡担保権を設定することは他の債権者を害することにはならない。
(三) 本件譲渡担保契約は、成立要件を具備した商事留置権の行使を免れて従前どおりの営業を継続するため、破産会社がやむなく行ったものであって、他に適切な方法はなく、被告としてもこれに協力すべく行ったものである。その内容も債務の担保提供行為として合理的な限度を超えたものではない。
2 争点2(破産会社の詐害意思)について
(原告の主張)
本件譲渡担保契約において対象となった商品は、破産会社において、唯一の資産というべきものであったから、これを担保提供したり、弁済に充てたりしている行為において、破産者に詐害の意思があったことは明白である。
(被告の主張)
破産会社代表者は、平成一二年四月以降、イベントセールの成功のために活動していたのであり、担当弁護士の助言も受けた上、被告に対しても、返済計画を示すなど、事実上の危機状態になっているとの認識もなく、また本件譲渡担保契約により債権者を害するとの認識もなかった。
3 争点3(被告の詐害意思)について
(被告の主張)
被告は、破産会社代表者からは、営業が好調で、取引額が次第に大きくなったほか、株式公開や海外進出を行うなどの話を聞いており、平成一一年三月ころの支払遅延も一時的な資金ショートである旨説明され、それ以降ただちに遅滞していた支払が行われるなどしていたことから、破産会社が危機的状況にあることを知らなかったし、債務状況を知ることもできなかった。
(原告の主張)
争う。
第三判断
一 争点1(本件譲渡担保契約の詐害性)について
1 証拠(甲二、三)及び当事者間に争いのない事実等(第一の一)によれば、破産会社は、平成一一年三月末時点で、被告に対し、四五九九万二七〇二円の支払を遅滞していたこと、同年四月末日時点において、流動資産四億円あまりに対して負債が八億円余りあることからすれば、本件譲渡担保契約時には、破産会社は債務超過の状態であって、実質的には危機的状況にあったものということができる。このことは、被告が主張する、破産会社の業態からみても同様である。
2 他方で、被告は、平成一一年四月九日当時、破産会社の商品を業務として保管しており、履行期が到来した請負代金債権を有しているから、商品について商事留置権が発生する。
この点、原告は、本件譲渡担保契約直前に覚書により保管業務を付加したものであるから、別途保管業務があったものと考えるべきではなく、商事留置権は成立しないと主張するが、右覚書は従前から保管業務を行っている実体を明確にしたものであるから(弁論の全趣旨)、その主張は採用できない。
3 また、本件譲渡担保契約の対象となった商品は、破産会社の営業に不可欠なものであり、しかも、破産会社と被告との業務委託関係は継続が予定されていたことから、破産会社としては、商品に関して商事留置権を行使されることにより営業を行えなくなること、被告との業務委託関係が打ち切られることをいずれも避けるために、優先的に弁済あるいは担保提供を行わざるをえないことになる。
また、被告にとっても、譲渡担保契約は、業務委託関係の継続を前提に破産会社への債権を回収するために、極く自然に考えられる措置の一つである。
4 そうすると、本件譲渡担保契約は、その契約当時、破産会社にとって、被告との業務関係を維持し、営業を継続する上で必要な行為であるから、債権者を害する行為ということはできないというべきである。
なお、原告は、千葉北流通センターにおいては、商事留置権が成立する余地がないと反論するが、商事留置権の成否が本件譲渡担保契約の詐害性の有無全てを決するのではなく、また千葉北流通センターは、被告が扱っている破産会社の商品のうちの一部分を担当しているにすぎないことから、全体として、本件譲渡担保契約の詐害性の判断に影響を与えるものではない。
二 争点2、3(破産会社及び被告の詐害意思)について
1 右一のとおり、本件譲渡担保契約それ自体に詐害性がないことを確認したが、なお破産会社及び被告の詐害意思についても検討しておく。
2 当事者間に争いのない事実等(第一の一)に加え、証拠(乙一七)によれば、以下の事実を認めることができる。認定事実に反する証拠はない。
被告は、破産会社について、平成一一年三月末ころは、イベントなどにおける商品販売を行う営業形態をとる会社で、平成一〇年一二月に大阪ドームで、平成一一年一月には東京ドームでイベントを行い、いずれも商品が不足したり、大勢の客を集めたりしたほどの盛況であったことから、業績拡大している会社であると認識していた。
同年三月末ころには、被告と破産会社との取引が増え、未払支払額が四五〇〇万円にも達していたが、支払に不安を感じるものではなかった。
同月三一日に、約四五〇〇万円の支払ができない旨の連絡を破産会社から受けたときは、意外に思われたものの、破産会社が、商品が冬物から春夏物へと移行する時期に当たり一時的に資金がショートして支払遅延に至ったとの説明を行い、同年四月九日午前中には右支払遅滞の一部である二七九万円余りを振込入金するなど営業継続への意欲を強く見せたため、営業状況にそれ程問題がないものと認識した。
そして、破産会社の営業継続の意向を受けて、同月九日に本件譲渡担保を設定した上、取引を継続することとし、提示された債務弁済計画を踏まえて債権回収を図ることとした。被告としては、破産者の業態の特殊性から、イベントの成功により債権回収の機会が十分あるものと認識していた。
そのような理解の下、同年六月一二日に確認書を調印する際、イベントで売れ残った商品を担保とするのではなく返還するとの破産会社代表者からの訂正要請に応じた。
3 右事実からすれば、被告において、本件譲渡担保契約締結当時、破産会社が危機的状況にあったとの認識がないばかりではなく、本件譲渡担保契約についても、破産会社と取引を継続する上で必要な法的処理であり、かつ債権の回収を含め、委託業務を継続する意向であったことが明らかであるから、破産会社に詐害の意思があったかはともかく、被告には詐害意思がなかったものというのが相当である。
三 その他
原告は、主な争点で指摘したほか、破産会社が、平成一一年六月一一日から一三日までの間、被告に対して三九〇〇万円の弁済をしたことをもって詐害行為であると主張しているが、右弁済行為は、本件譲渡担保契約を前提として行ったものであるから、争点一、二で認定したとおり、本件譲渡担保契約が否認されない以上、それ自体で詐害行為ということはいえない。
したがって、原告の主張はいずれも理由がないことになる。
第四結論
以上からすれば、原告の請求は理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 足立正佳)